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2025年7月17日 (木)

彼女の一歩が、世界を変える

 パキスタンの南部にある、小さな村。そこに暮らすラジアさんは、夫と共に農業を営みながら、四人の子どもを育ててきました。畑で綿花を育て、家畜の世話をしながら慎ましくも力強く日々を過ごしていました。

 けれども、2022年の夏。モンスーンによる未曾有の洪水が村を襲いました。それは、ただの自然災害ではありませんでした。多くのいのちの支えが、濁流と共に押し流されてしまったのです。ラジアさんの家も、そのひとつでした。せっかく実った作物は失われ、裏庭に積んでいた種や穀物も、水と共に消えていきました。汚染された洪水の水で家畜も病にかかり、次々に命を落としていきました。

 水が引いたあとに残ったのは、深い泥と、不安だけでした。「これからどうやって暮らせばいいのか」と村中が、絶望に沈んでいました。収入の見込みもなく、塩化した畑を回復させ耕す手段もなく、食べる物さえも足りませんでした。

 けれども、ラジアさんは黙って立ち尽くすことをしませんでした。彼女は、子どもたちを守るため、畑を取り戻すために「誰かが何かをしてくれるのを待つのではなく、自分から動こう」と決意したのです。

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 そのころ、私たちジェンは、洪水の被害を受けた農村地域への支援を始めていました。洪水や干ばつに強く、栄養価も高い小麦やからし菜、大麦などの「未来のための種」を、被災した家庭へ届けるプロジェクトでした。私たちがラジアさんの村を訪れたとき、彼女は自ら声をかけてくれました。

「話を聞いてください。畑を再開したい。でも、種もお金もないのです」その率直で真剣な言葉に、私たちは心を動かされました。彼女の家族は特定基準に沿って支援対象として選ばれ、必要な種子や肥料、農薬、種の保管袋などを受け取ることになりました。

 ラジアさんは支援を「もらって終わり」にはしませんでした。農業経験をもとに「リーダー農家(Leader Farmer)」に選ばれたラジアさんは、農業技術研修に参加し、病害虫の見分け方や、適切な収穫の時期、種の選別方法などを身につけていきました。

 ラジアさんは学んだことを、「同じように困っている女性たちにも伝えたい」と、近くの村の女性たちを50人集め、小さな研修会を始めました。「自分にもできるかもしれない」と感じた仲間たちにとって、ラジアさんはいつの間にか、村の希望の象徴になっていました。

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種がつなぐ未来

 収穫した種の一部は、次の年のためにと、大切に保管されました。この事業では、収穫した種の一部を他の2世帯に提供します。それは、助け合いの仕組みでもあり、未来へ希望をつなぐ仕組みでもありました。

 プロジェクトが拡大し、370世帯が新たに支援を受ける「第二フェーズ」が始まったとき、ジェンは再びラジアさんに声をかけました。今度は「リーダー農家」として地域と行政をつなぎ、支援活動を先導する役割を担っていただきました。ラジアさんは農業局とも連携し、女性たちの声を丁寧に拾いながら、セッションを開催しました。農業に女性が関わることが当たり前ではなかったこの地域で、彼女はしっかりと道を切り拓いていったのです。

彼女の一歩が、世界を変える

 今、ラジアさんの家には、再び家畜の鳴き声が響いています。支援活動に参加してから家畜を購入することができたのです。バッファロー、子牛、ヤギとその子どもたち。彼らのミルクは、家計を支え、子どもたちの教育にも役立っています。「私たちは助けられただけではありません。一緒に立ち上がったのです」と、ラジアさんは穏やかに話します。

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 私たちジェンは、ただ支援を「届ける」団体ではありません。人びとの中にある「生きる力」を信じ、それを支え、ともに未来を育む団体です。ラジアさんのような人が、立ち上がり、歩み出す。それがやがて地域を変え、世界を変えていきます。あなたの想いが、その第一歩を支えます。どうか、これからも共に歩んでください。

 

*本事業は株式会社ゼンショーホールディングスのお客さまと従業員の皆さまから寄せられた募金とジェンへの寄付金により実施しています。

7月 17, 2025 洪水被災者支援 |