洪水後の土地の回復と農業の復興を目指すアリさんの志
ジェンは、シンド州ダドゥ郡で洪水被害を受けた1,100世帯、約7,150人(世帯平均6.5人)に対し、食糧危機の状況改善を目指して支援活動を行っています。
この事業では、持続的な作物生産(=生計回復の機会)と回復力強化を目指しています。洪水に強い複数の作物種子に加え、肥料や殺虫剤、農薬、密閉できる種子保存袋を提供しています。事業終了後も地域を支援する意欲のある農家を特定し、「リーダー農家」として、現代的な農法や次の栽培季に利用するための種子を適切に輸送・保管するための研修も実施します。これにより、地域の農家が作物生産を再開し、作物の多様性と収穫量を増やし、次の栽培季に品質の高い種子を入手し、洪水の影響を回避できる場所に保存できます。
事業参加者のひとり、アリさんのお話を紹介します。マジッド・アリさんは、シンド州ダドゥ郡にあるアルジ・ナイチ村に住んでいます。アリさんは6人の兄弟と妻と子どもの9人家族です。農地を保有し農家として生計を立てていました。
残念なことに、2022 年の洪水の被害は想像を絶するものでした。アリさんの農地は完全に破壊されなすすべもありませんでした。
一方で、アリさんは、ジェンがこの地域で農業プロジェクトを実施するという知らせを聞いてとても安心しました。他の地元の人びとにとっても同じでした。アリさんの世帯は、ジェンの支援対象世帯の特定条件の一つである「最も支援が届いていない市街地中心から離れた地域に住む世帯」に相当したため、事業参加者の一人として選ばれました。また、地域の農業復活に意欲的なアリさんは「リーダー農家」にも選ばれました。
アリさんは、「洪水で全滅しましたが、私たちの地域は農産物で有名です。小麦は私たちの地域の主要作物であり、人びとの主な収入源となっています。これからジェンの支援により、地域の人びとの農業が再開し、食べ物のニーズを満たすだけでなく、作物を市場で販売してお金を稼ぐことができると確信しています」と、とても嬉しそうに話してくれました。
加えて、アリさんは「洪水により、育った作物が失われ、農地も壊滅的な状況ですが、プロジェクトの対象に私たちの村を選んでくれたジェンにとても感謝しています。私を含むこの地域の農家は、自分たちの土地で作物を育てることができるよう、土地の回復を心から望んでいます」とも話してくれました。
所有する農地の前に立つアリさん
「私はジェンのアドバイスに従って、土地を準備し、運河の水で1か月間大量に灌漑しました。洪水の影響で蓄積された塩分が浸出しています。私の農地には、肥沃な土地が戻り、今は写真にあるようにラビ栽培[1]の準備が整いました。」とお話されました。
この地域の農地は徐々に回復しており、栽培が可能な状態になっている
耕作の準備ができている農地の様子
今年(2023年)もパキスタンでは6月下旬頃から8月にかけてモンスーンで大雨が降りました。支援地ダドゥ郡ではこの洪水による大きな被害は確認されなかったものの、今後も洪水に対する懸念は続きます。万一、水害が再び襲いかかることがあったとしても、人びとが自立した生活に立ち戻れるよう、ジェンは、引き続きパキスタンの水害被災者への支援を実施してまいります。改めまして皆さまの温かいご支援に心より感謝申し上げます。
※本事業は、ジャパン・プラットフォームからの助成金やジェンへの寄付金により実施しています。
[1] ラビ作物とは、パキスタンやインドなどの南アジアで冬の初め頃植えられ、春頃収穫時期を迎える作物のこと。小麦、タマネギ、ジャガイモなどは、ラビ作物に入る。乾季に栽培が行われるため、灌漑が必要となる。