学校修復事業に見るイラクの未来
JENはバグダッドで小学校の修復事業をしている。戦争の影響を受け、長年の経済制裁、フセイン政権下で老朽化した建物を、子ども達が安全にそして安心して勉強できるように修復するのだ。修復作業は現地の建設業者が実施し、JENはイラク教育省やユニセフとの協力のもと修復内容を決定し、その通りの修復が行われているかを確認するために毎日現場を訪れる。
修復事業を実施する上で、最も重要で、最も苦労するのが適切な業者を選ぶことだ。治安が悪く、事務所の住所や小学校名を公にできないため、新聞広告などを使う公開入札などもちろんできない。そのため、これまで国際機関やNGOとの仕事経験のある業者を選び、入札の案内を出す。そして、修復の見積りや過去の実績、銀行口座の残高や資機材など資産がわかる書類を提出してもらい、その中から慎重に検討していく。
昨年の9月、3校の修復を行う3つの業者を選ぶのには1ヶ月近くの時間をかけた。業者から脅迫を受けたり、賄賂を贈ろうとされたりすることも珍しくない。国際機関からの需要も増えているため、見積りも高くなりがちだ。このような状況で、公平にしかも適切な業者を選ぶためには、書類の確認、現場への訪問、直接の交渉に時間をかけざるを得ないのだ。
時間がかかる理由は他にもある。バグダッド市内は、電話網がまだ全面的に回復していないため、業者への質問や書類の再提出の依頼など、電話があれば30分で解決することが2日がかりになったりする。それから、イラクの人は「できない」とは決して言わない。「では、お願いします!」と依頼したことが、いつになっても返事がないこともある。そうすると、また確認のために足を運ぶはめになるわけだ。
業者選定にあたって、交渉する相手は業者だけではない。JENの現地スタッフの中には建設業界で経験のある技術者もいるが、価格が最も安い業者を選ぶのが最善と考えている彼らを、価格だけでなく仕事の質や経験・実績、実施能力も考慮するべきであることを説得するのが大変だった。自ら建設会社も経営、この道30年以上のベテランのおじさまにしてみれば、全く素人の私に「それは違う!」と言われるわけだから、当然おもしろくないわけである。それでも必死に説明し、何とか理解をしてもらい、最終的には担当スタッフ全員で3業者の選定に合意した。
修復現場ではこうして選定した業者が雇用した地元の労働者が、1校につき30人~40人働いている。失業問題が深刻なイラクで、たとえ数ヶ月であっても人々が職に就く機会を提供できることが、この修復事業の持つ重要な意義でもある。現場を訪れ、作業している人たちにカメラを向けると、いつも得意気に笑顔を向けてくれた。現地では日常生活が改善せず、治安も悪化する不安定な日々が続いている。それでも学校の修復という仕事に汗を流しながら、自分達の国の再建に、自分が直接関っているという誇りさえ感じられた。学校修復という作業に、彼らは未来への希望を感じているのではないか。そんな彼らの笑顔から、私自身がいつもパワーをもらっていた。