元バース党のスタッフ
JENのバグダッド事務所には、現在、13人の現地スタッフが働いている。シーア派が半数を占めているが、もう半数の職員はスンニ派、キリスト教徒、クルド人と、まるでイラク社会の縮図のような構成だ。
昨年8月にJENが事務所を開設した時から働いているスタッフの一人に運転手のイヤドがいる。恰幅が良く、声も大きく、「ガハハ」という豪快な笑いが良く似合う。一見すると強面なのだが、笑顔はチャーミングなおじさんだ。あまりにお腹が大きいので、「赤ちゃん元気?」というのが、彼とのおきまりの挨拶だった。そうすると、いつも満面の笑みで、「僕の赤ちゃん!」とお腹をたたいてくれる。
そんな彼も、今回の政権崩壊により失業した人の一人だ。彼は、スンニ派の元バース党員で、戦争前は公務員として働いていた。決して、「お金持ち」ではないが、バグダッドの郊外に家があり、一帯に大きな土地を持っている。その敷地内に新しい家を建てていた。乗っている車は、日産のサニーだが、動くの?というようなおんぼろ車が多いバグダッド市内では、明らかに新しく良い方だ。イヤドが旧政権下でどんな仕事をしていたのか、詳しくは知らないが、彼の家や車を見る限り、それなりの特権を得ていたものと考えられる。他のスタッフにイヤドの「過去」について聞いても、旧政権への恐怖心からなのか、はっきりとした答えは返って来ない。政権崩壊により多くの公務員、特に公安や秘密警察として働いていた人々が職を失った。彼もそんな一人なのかもしれない。
旧政権下で自由に外国に行くことができなかったイラクの人々だが、イヤドは昨年11月のラマダン明けの休みに、ヨルダンのアンマンにいる親戚を訪ねて、初めての外国に出かけて行った。その期間、私もアンマンにいたため、一緒にレストランで夕食をした。食事時のイヤドは、いつも楽しそうだが、その日はいつになく、はしゃいでいて、生演奏に合わせて歌ったりしていた。初外国の感想を聞いたら、「アンマンは、物価が高いけれど、キレイなお姉ちゃんがたくさんいる!」と嬉しそうだった。
JENの現地スタッフを見ても、今回の戦争・政権崩壊に伴い、大きく生活が変わっている。多くの人は仕事を失い、生活が苦しくなった。新しい職に就き、外国にも行き、楽しそうに生活しているイヤドにとっても、支援事業と言う期間限定の仕事の将来は不透明だ。このためJENは、一人でも多くの人たちが、将来安定した雇用を得られるような事業を実施する様工夫を凝らしている。
現地スタッフに、主権移譲後の暫定政府に関して聞いてみると、「少なくとも彼らはイラク人であり、問題解決に向けて取り組んでいる。街の警察官も増え、治安は良くなってきた。」と治安改善に期待を寄せているようだ。私も、一般の人々が生活に少しでも明るさが取り戻せるような変化を暫定政府に期待している。
7月 15, 2004 | Permalink
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