三種の神器
日本で、最近「三種の神器」と言えば、デジタルカメラ・DVD・薄型テレビだが、戦後のバグダッドで、「三種の神器」と言えば、衛星テレビアンテナ・インターネット・携帯電話だろう。どれもフセイン時代には禁止されていたが、戦後、より広い世界とつながるアイテムとして、一躍脚光を浴びる存在となった。
1つ目の衛星テレビのアンテナは、私がバグダッドに行った昨年の夏、すでに一般家庭に設置されているのをあちこちで見かけた。電気屋に行っても、山積みで売られていたので、その盛況ぶりは一目瞭然だった。旧政権下では、見られるチャンネルは国営の3放送だけだったが、衛星アンテナをつけられるようになり、外国のテレビも含め何十ものチャンネルが見られるようになった。「アルジャジーラは、嫌いだから見ない」というようなやりとりを現地スタッフがしているのを聞いたことがある。見たいものと見たくないものを自由に選択できるようになったことが、イラクの人々にとっては大きな変化であったと思う。
パソコンは高級品のため、どこの家庭にもあるというわけではない。学校や職場では、普及しつつあるようだが、「仕事で使っている」と言っても、エクセルの計算式の入力はわからないと言ったレベルの人が多い。それでも、戦後のバグダッドでインターネットは大きなブームとなっている。市内を車で走ると、「Internet Cafe」という看板を良く目にした。カフェの利用者は、米軍や支援団体の関係者など外国人が多いが、地元の人々もメールやネットサーフィンを楽しんでいる。料金は、1時間200円程度だ。日本に帰国した後、現地スタッフが、たまにインターネットカフェから、メールを送ってくれる。遠い日本と瞬間的にやりとりができることも、1年前の彼らには想像できなかったことなのではないだろうか。
そして、3つ目の携帯電話。バグダッド市内で使える携帯電話は、戦後、いち早く米企業がネットワークを構築し、CPA(暫定占領当局)や占領軍、外交官、国連機関、NGOなどに無料で配布されていた。私達にも配布され、現地スタッフにも持ってもらった。彼らは最初は操作に慣れず、応答できなかったり、充電を忘れたりしていたが、少しするとすっかり使いこなし、待ち受け画面や着信音を変えるなどして楽しんでいた。そして、一般の人が手にできる携帯電話は、今年の3月頃に登場した。携帯電話本体と通話カードで17,000円程度。段々と持つ人が増えていると聞く。
戦争終了から1年以上が経ち、旧政権時代には考えられなかった自由や便利さが得られるようになっている。しかし、これらの物を手にできるのは、まだまだ限られた人だけだ。インターネットカフェがあるのも、携帯電話が使えるようになったのも、首都バグダッドと一部の都市に限られている。その中でも実際に利用できるのは、ある程度の安定した収入のある人々だけだ。そして、携帯電話が使えるようになる一方で、一般の電話回線は、復旧しないままの状態が続いている。電話が通じないから行かないと話せない現状から、電話すれば用が済むという当たり前の状況に戻るまでには、まだまだ時間がかかりそうだ。