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2004年6月16日 (水)

1,000人の生徒に一つの蛇口

 イラクの学校は、その半分以上で水が出ないという環境だ。修復校の選定のために私が訪問した学校の中には、1,000人以上もの生徒がいる校舎に水が出る蛇口が校庭に1つ、というところもあった。信じられない本当の話である。水飲み場はあっても蛇口はなく、トイレにいたっては、水が流せないため汚物がそのまま放置されていて、足を踏み入れることすらできないような学校をいくつも見た。当然、手を洗うことはできない。そして子どもたちは、気温40度、停電で扇風機も動かない学校へ、飲み水として、ペットボトルに水道水を入れて登校する。

 バグダッドの水道水は、目で見てわかるほど濁っている。それでも、一般の人々は、その水を飲料水として使用している。ミネラルウォーターは1.5Lのペットボトルが20円ほどで買え、どこでも売られているのに、私の周りにいた現地の人でそれを買っている人はいなかったと思う。
 学校や一般家庭を訪問すると、暑い季節にはよくコップと水を差し出された。暑くなると50℃を越えるバグダッドで、水はとても有り難かったが、失礼とわかっていながらも、その水を飲むのは遠慮していた。ペットボトルに入った水を持ってきてくれる場合も油断はできず、中身は明らかにミネラルウォーターではなく、「濁った水」のことが多い。

 バグダッド市内の水源といえば、世界史の教科書に登場するメソポタミア文明発祥の地、チグリス川である。雄大な川の流れを見ていると、この地で水に困るということは無さそうに見える。それでも、今のバグダッド市内に、十分な水が供給されているとは言いがたい。水源はあっても、それが市内に行き届く上下水道のネットワークが十分機能していないからだ。日本のように一度にたくさんの水は使えない。
 昨年8月の猛暑の中での事務所への引越しの日、私はバグダッドの水事情をまだ知らなかった。あまりに砂埃が積もっていたので、床中に水を蒔いて掃除をしたら、急に水が出なくなった。その後、屋上にあるタンクに水が貯まるまで数時間かかり、引越し作業の後でシャワーも浴びられず、料理も作れず、困り果てた。その後、シャワーも洗濯も節水、が教訓となったのは言うまでもない。

 それでも、JENの事務所では蛇口をひねれば水が出ていたのでまだ良かった。バグダッド市内では給水設備が稼動していないため、今でも水がほとんど来ない地域もある。さらに、下水処理はほとんど機能していない。生活廃水はそのままチグリス川に流れ、それが不十分な浄水設備を通して、一般家庭に流れるわけだ。水道水が濁っている理由はここにある。首都でさえそのような状況なのだから、イラク全土の状況は深刻である。
JENは今、こうした稼動していない給水設備の調査をしている。少しでも多くの人々が安全な飲料水を確保できるように、一刻も早く支援を開始したい。夏の盛りは目の前である。

6月 16, 2004 |

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