銃声?!お祝いの祝砲
バグダッド滞在中に「怖い」と思ったことは?と聞かれたら、真っ先に思い出す出来事がある。11月のある晩、事務所でテレビ見ていたら突然銃声が鳴り響いた。しかも、とても近くで。マシンガンなのか散弾銃なのか、とにかく複数の人が打ち続けている。これは大変なことが起きている!と、全ての電気を消して、クッションを抱え、心臓バクバクで赤い弾道が行き交うのを窓からじっと見ていた。
4ヶ月滞在しても、最後まで慣れなかったものがある。それは銃声だ。銃を見たことも、生の銃声を聞いたこともなかった私は、近くで銃声が聞こえる度に、いつもドキッとしていた。昼間に外で銃声を聞くこともあったが、ほとんどは夜、事務所にいる時や寝ている時だった。ベッドの上で真っ暗な中、銃声が近くで連続して聞こえると、ついつい心配になり隣の部屋で寝ている同僚に安全を確認したものだった。
イラクでは、誰もが銃を持っている。各家庭に、ほぼ必ず銃があると言っても過言ではない。値段は、カラシニコフ銃が1丁8千円程度と日本の感覚では驚くほど安い。現地では洗濯機が2万円ぐらい、テレビの衛星アンテナが1万円ぐらいだから、家電製品を買うよりは安く手に入ることになる。因みに、手榴弾は1個400円だ。戦後、警察が武器の取り締まりを強化しているという話も聞いたが、それでも簡単に購入できるらしい。それにしても、なぜそんなに銃を持っている必要があるのだろうか?
銃は、持っているだけではなく日常的に使われている。ある時、学校に視察に行ったら、門の外で銃声が響いた。私が1人で慌てていると、学校の先生が冷静に、「今日はお葬式があるの」と言っていた。ここでは人が亡くなると、空に向けて空砲を撃つのが習わしだという。お祝いの時にも空砲を放つ。昨年の12月にフセイン元大統領が拘束された時、イラクの人々が銃を放って喜んでいた様子が日本でも報道されていたので見た方もいるだろう。
さて、ここで話は最初に戻る。10分以上続いたと思う銃撃戦の音がようやく収まったので、おそるおそるドアから顔を出し、外にいるガードマンに様子を伺ったところ、何だかとても嬉しそうなのだ。いったい、どうなってるの?!と思いながら聞いてみると、私が心底怖い思いをしながら聞いた一連の銃声は、なんとイラクがサッカーで勝ったというお祝いの祝砲だったのだ。私は、脱力感でしばらく呆然としてしまった。あれだけ撃てば、当然流れ弾も飛んでくるだろうし、相当危険である。実際、祝砲にあたって亡くなる人もいるらしい。お祝いなら、クラッカーでも使ってよ!!と大声で叫びたい心境だった。
銃が出回る治安の悪いバグダッドで活動を行うにあたり、現地スタッフからは事務所にも銃を持つべきとの意見が出ることもある。しかし、JENバグダッド事務所は武器を持っていない。武器は人に威圧感を与え、時には反感も生む。武器を持っているからこそ撃たれることもある。支援活動に武器は必要ない。イラクの厳しい治安状況下での活動でも、私はそう信じている。