« 学校調査 | トップページ | 子どもたちのための支援を »

2003年5月10日 (土)

イラクのペット事情

イラクでは、ペットとして犬や猫を飼う習慣はほとんどない。飼われている動物で良くみかけたものは、なんと言っても羊である。バグダッド市内でも、羊の群れとよく遭遇した。えっ、ペットに羊?と思われるかもしれないが、もちろん、ペットではなく家畜として飼育しているのだ。日本で人気の犬や猫は、どちらかというと嫌われている。犬は番犬として飼われているのをたまに見かけたが、裏庭などにただいるというだけで、「家族の一員」的存在とは一線を画している。野良猫はウロウロしているが、子ども達に石を投げられたりしていて、猫をこよなく愛する私としてはかなり心が痛んだ。

JENのバグダッドの事務所に、野良猫の親子4、5匹が出入りしていた。猫が事務所の建物の中に入っているのを見ると嫌がる現地スタッフも多いので、仕事が終わってスタッフが帰った後、こっそりと「仲間たち」を中に入れて食事をあげたり、遊んだりしていた。猫大好きの私にとっては至福のときである。もちろん、ペットフードなんて売っていないので、夕食の肉や魚を残してあげていた。最初は、ママ猫に食事をあげていたら、いつのまにか子猫が増えていた。

そのママ猫を、イスラム風に「アイーシャ」と名づけた。それを現地スタッフに話したら、とても怪訝な顔をされてしまった。「アイーシャ」は、女の子によくある名前なのだが、預言者モハメドの妻の名前で、イスラム教徒にとっては神聖な名前であるため、猫につけるなんてとんでもない!ということなのだ。特に、ガードマンの娘さんにアイーシャという子がいるので、彼の前では絶対その猫の名前を呼ばないようにも注意された。それを聞き、知らなかったとは言え軽々しく名前をつけたことを反省したものだ。

犬が嫌われている理由も、イスラム教と関係がある。イスラム教では、豚は不浄のものとして口にしないことは有名だが、犬も同じように見なされている。そのため、犬を触ることは非常に良くないことだと思われているのだ。少し前、米軍が役所で働くイラク人スタッフの荷物検査のために軍用犬を導入し、建物の入り口で犬に体や荷物をかぎまわられることを侮辱と感じたスタッフが抗議するといった事件が起きた。どのような立場であれ、他の国で現地の人々と協力・信頼関係を築くためには、その土地の文化や習慣を尊重しなくてはならない。当たり前のことだ。

今、刑務所で不浄のものとされている犬のような扱いを受けているイラクの人々の写真を見て、誰よりも衝撃を受けているのはもちろんイラクの人たちである。犬は嫌われる動物である上に、習慣上、家族にも裸は見せない人々だ。虐待を受けた人たち、その家族、そしてイラクの人々の怒りははかり知れない。バグダッドでも占領軍への反感は今までになく高まっている。米軍が戦車やヘリコプターでのパトロールを減らしているくらいだ。私たちにできることは、この怒りが更なる治安の悪化・復興の停滞につながらないように、現地の人々の立場にたった支援を続けていくことだろう。

5月 10, 2003 |

コメント

この記事へのコメントは終了しました。