「帰還」とは何なのか――アフガンの「故郷」へ戻った人びとの実情
アフガニスタンには今日、日本ではほとんど知られていない「帰還民」と呼ばれる人たちが大勢います。「帰還」という言葉から「故郷に帰る」といった良い響きを感じる方もいるかもしれません。
しかし、実情は大きくかけ離れています。限られた準備期間で何十年も住んできた土地を追われた人、一度も暮らしたことのない「故郷」に戻された人、言葉も通じない新たな環境で戸惑う人たちが、大勢います。
ジェンが支援した帰還民の暮らしから、「帰還」という言葉の重みを考えます。
ジェンの支援を受けて裁縫事業を始めた帰還民の女性(2025年11月)
過去にない規模の帰還――そもそも「帰還民」とは
1970年代以降、40年以上にわたり内戦や紛争に直面してきたアフガニスタンでは、その間、多くの人びとが隣国のパキスタンやイランに逃れました。避難先で2世代、3世代にわたり生活を築いてきた人たちも少なくありません。
そうした中、パキスタン政府は2023年9月、「不法滞在外国人帰還計画」を開始し、国内の「不法滞在外国人」に母国への帰還を促しました。この政策を受け、2026年4月までに同国からアフガニスタンに帰還した人は228万人に上ります。同様に、イランからも大量の人が帰還しています。
パキスタンは1979年の旧ソ連によるアフガニスタン侵攻以来、40年以上にわたり数百万人規模のアフガニスタン難民を受け入れてきた、世界有数の難民受入国です。
経済的にも社会的にも大きな負担を背負い続けてきた事実があり、帰還政策の背景には自国の安全保障や経済への懸念があるとも指摘されています。
一方で、長期にわたりパキスタン社会に根を下ろして暮らしてきた人びとが、十分な準備のないまま帰還を迫られ、人道的に深刻な状況を生み出しています。
パキスタンからアフガニスタンへの帰還者人数推移(月別 ・ 2023年9月〜2026年4月)
UNHCR-IOM FLASH UPDATE #92 をもとに作成
「帰った先」に、かつての暮らしはない
パキスタンから帰還した人の多くは、首都カブールや、国境を接するナンガルハル県に留まります。
ジェンが同県で支援する帰還民に話を聞くと、多くの人たちが、長年かけて築いた生活基盤をほぼ丸ごと失っています。仕事も家も人間関係も、パキスタンに置いてきたという人が大半です。
ザヒダさん(42)はパキスタンに30年暮らした後、帰還しました。「あちらでは平均的な生活でした。子どもたちは学校に通い、夫には商売があり、基本的なニーズは満たせていました」。しかし、帰還から7か月、慣れない土地で仕事を見つけるのに苦労し、家賃を払うことができず、「カブール・キャンプ」と呼ばれる帰還民キャンプに身を寄せています。42歳での再出発は肉体的にも容易ではありません。
レンガ職人だったティラ・モハマドさん(38)も、パキスタンから帰還した一人です。妻を亡くし、7人の子どもを一人で養う中、戻った先には仕事も商売もありませんでした。「ここに来てから、何の仕事も商売もない状態でした」と振り返ります。
パキスタン国境付近で手続きを待つ帰還民の人たち(2025年8月)
知らない「祖国」へ帰還
帰還民の中には、自分の知らない土地に「帰された」人たちもいます。生まれも育ちもパキスタンで、アフガニスタンに記憶のない若い世代です。
ナビラさん(22)は「パキスタンで育ったので、ここに来たとき、人も土地も分かりませんでした」と話します。彼女は形式上、アフガニスタンのラグマン県の出身とされますが、彼女が知っているのはパキスタンの風景だけでした。
さらに極端な例もあります。ノリナさん(38)はパキスタン・ペシャワル生まれ。アフガニスタン人の夫に嫁いだことで、自分のルーツのない土地に「帰還」することになりました。子どもは8人、夫の靴修理の稼ぎは1日20〜40アフガニ(約50〜100円)。「一家の運命を夫が一人で背負っています。家族が大きいので、私が技術を身につけて支えなければなりません」と話します。
自宅で稼ぐ力を ― ジェンの生計支援
ジェンは2025年、上記の女性たちやティラさんを含む特に10世帯に、収入を得られる事業を始めるための備品を届けました。女性9名に縫製キット(ミシン、生地、はさみ等)、男性1名には販売用カートを支給し、事業計画・販売・記帳などの研修もあわせて実施しました。
ティラさんは支給されたカートで行商を始め、午前は自分が、学校から戻った息子が午後の店番を担い、二人で1日600アフガニ(約900円)を稼げるようになりました。「これで息子が勉強を続けられる」と笑顔を見せます。
研修参加者の平均日収は約950アフガニに達し、近所の若い女性に技術を教え始めた人もいます。
ジェンはこれからも、帰還民など特に困難な状況に置かれた人たちに寄り添い、自立への一歩を共に歩む活動を行っていきます。
5月 21, 2026 | Permalink



