食事をとれない日々を乗り越え、生き延びた家族――アフガニスタン帰還民支援
「過去にない規模」アフガニスタン帰還民の実情
パキスタンで2023年9月に始まった「不法滞在外国人帰還計画」。同国に滞在するアフガニスタンの人びとを主な対象としたこの政策で、25年11月末までに約180万人がアフガニスタンへ帰還しました。多くの人が十分な準備もないまま、長年住んだパキスタンの地を離れざるをえず、帰還先では住居・食料・医療など深刻な人道的課題が発生しています。
ジェンは2024年2月からアフガニスタン国内で帰還民支援を続けており、昨年の夏には事業スタッフが、帰還民が集まるトルハム国境付近を視察しました。国連機関の報告やスタッフの現地視察をもとに、帰還民が置かれている実情を読み解きます。
帰還民を対象にジェンが行った食糧支援(2025年8月、ジャララバード地区で)
「難民」も帰還を促す対象に
パキスタンにアフガニスタン難民が流入したきっかけは、1979年の旧ソ連軍によるアフガン侵攻に遡ります。それ以降、今日に至るまで、アフガニスタン国内の情勢悪化とパキスタン政府による帰還政策の間で、難民の流入と帰還は何度も繰り返されてきました。ただし、今回の帰還政策は、過去にない規模と言われています。
パキスタンに居住しているアフガニスタンの人びとの在留ステータスは大きく分けて三種類あります。「難民」としてパキスタン政府と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に公式登録されている「Proof of Registration(PoR)」保持者、PoRを持たないがパキスタン政府から国内の一時滞在を認められていた「Afghan Citizen Card(ACC)」の保持者、そしてPoRとACCの両方とも保持していない「Undocumented」の人たちです。
いずれもアフガニスタンにルーツがあってもパキスタンで生まれ育った人も多く、こうした人びとは、パキスタン政府から見れば「外国人」ですが、実際にはパキスタン社会に馴染んで暮らしています。
パキスタン政府が2023年9月に始めた帰還計画では当初、対象は最も立場の弱いUndocumentedの人たちと見られていました。しかし2025年4月にはACC保持者、さらに7月にPoR保持者も「有効期限が切れている」として、帰還対象とされました。UNHCRはこの措置に関し懸念を示しています。
UNHCRと国際移住機関(IOM)の報告によると、2023年9月以降、パキスタンからアフガニスタンに自主的に帰還した約160万人のうち、Undocumentedは約120万人、ACC保持者は約9万人、PoR保持者は約36万人となっています。このほか約18万人が退去措置を受けています。イスラマバード市内にあるJENパキスタン事務所周辺でも、一昨年ごろまでは多くのアフガニスタンの人びとが居住し、商店などを経営していましたが、昨年に入り、ほとんどいなくなりました。
トルハム国境近くに設置された帰還民キャンプ
帰還民の「国境越え」
帰還政策が続く中、2025年8月、ジェンの事業スタッフがパキスタンからアフガニスタンへ陸路で入る機会がありました。パキスタン側の都市ペシャワールから約60キロ地点のトルハム国境近くの道路では、帰還民のものとみられる家財道具を積んだ大きなトラックが長い列をなして止まっており、越境手続きにはお年寄りや女性、子どもたちが、日陰もない中で何時間も待たされていました。一方、国境を越えたアフガニスタン側には、UNHCRなどが運営するキャンプがあり、簡易宿泊施設のほか、学校やクリニックなどが併設されていました。人びとはここで帰還民としての登録を済ませ、一時金を受け取って帰還先へと移動していきます。
パキスタンから帰還した人の多くは、アフガニスタン側の国境地帯であるナンガルハル県に留まっています。両国の国境を挟んだこの地域は、パシュトゥー語を話す人たちが多く、元々、パキスタンに避難していた人たちの大部分もこの地域出身の人たちだからです。一方、アフガニスタンの公用語であるダリ語はペルシャ語に近いことから、ダリ語を母語とするアフガニスタンの人びとには、イランに逃れた人が多くいます。
25年4月にパキスタンから帰還したナジファさん(左から2人目)とご家族
「生きるだけで精一杯」帰還した家族を支援
帰還民の中には、アフガニスタン側に親戚がいて、比較的スムーズに生活を再建できる人もいます。しかし多くは、パキスタンに家財道具や家畜、不動産などを残したまま、最低限の荷物だけで帰還し、住居や食料の確保にも苦労しています。またパキスタンの公用語であるウルドゥー語で生まれ育った若者や子どもたちの中には、アフガニスタンで使われるパシュトゥー語やダリ語を十分に話せない人も多く、帰還後の生計構築やコミュニティへの適応が一層困難になっています。
ジェンは昨年8月、ナンガルハル県で帰還民のうち寡婦世帯や障がい者世帯など、特に困窮している1,024世帯を対象に食糧を配付しました。支援を受けたナジファさん(45)は、身体障がいのある息子を含む7人家族で、ACC保持者として約9年間パキスタン・パンジャーブ州で暮らしていましたが、帰還政策を受け25年4月に帰国しました。
帰還後は、月額家賃1,000円程度の部屋を借りたものの、収入も貯蓄もなく、食事をとれない日が続きました。子ども3人が病気になっても病院に行けず、生き延びることも困難に思えました。そんな中でジェンから2月分の食糧を受け取ったナジファさんは、「しばらく空腹を気にせず眠ることができます。その間に、今後どうやって生きていくか、子どものたちの健康をどう回復させるか考えたい」と話していました。
長い年月をパキスタン社会の中で懸命に生きてきた人びとが、帰還を強いられ、生き延びるだけでも必死な日々を送っています。ジェンは帰還民の状況を注視しながら、今後も必要な支援を届けていきます。
※本事業は、ジャパン・プラットフォームからの助成金や皆さまからのジェンへの寄付金により実施しています。








