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2004年3月26日 (金)

終わりは始まり(駐在員椎名カブール日記)

2  ショマリ平原では最近、草原やブドウ畑の中に赤や白、ピンクといった花が咲き出した。平原の春を知らせる野生のチューリップである。平原に咲くこの花はこれから夏にかけてたくさん咲き乱れるようになり、草原の緑と相まってさながら春の絨毯である。アフガニスタンで働きだして初めてこの光景を目にしたとき、その美しさに写真を撮る事も忘れただ呆然と見とれるばかりだったのを思い出す。3

 私の退職を発表したとき、現地スタッフは口々に私に不満を申し立て、「シイナが辞めるなら俺も辞める」などと物騒な事を言い始めた。しかしアフガニスタンでは、それが職場を去るものへの一種の社交辞令、はなむけの言葉だと知っていた私には、何かほほえましくもあり、正直少し嬉しくもあった。気がつけばアフガニスタンで働き始めて1年半の歳月が経っていた。 
 アフガニスタンに赴任したての頃は、ただ何もかもが珍しく、ただ必死に現場に出てアフガンの砂塵に吹かれていた。現地の言葉を少しだけ覚え、人々と簡単な会話が出来るようになると、私は村の人々の素朴な優しさに惹かれるようになった。畑で取れたブドウを食べながら、またはアフガン版のコタツである「サンダリ」に入りながらお茶を飲み、村人と彼らの生活についてあれこれ話を聞かせてもらいながら、私は彼らの世界を垣間見させていただいた。
4  私は村人の「手」が大好きである。多くの場合それはざらつき、ひび割れ、くしゃくしゃにした新聞紙のようであったが、私の目の前で幾つもの「手品」を見せてくれた。器用に斧を使って節くれだった薪を割る「手」、小麦粉から生地を作ってアフガン版の餃子であるマントゥを作る「手」、パラパラしたご飯を手のひらでまとめ、親指で押し出すようにして口に放り入れる「手」…。それらの「手」は私にない、生活を掴み取る「手」であった。私は何度も試してみたが、時間ばかりかかっていっこうに上達しなかった。アフガニスタンで人々の生活に触れていると、「本当の豊かさとは何か」などといった、かしこまった事を考えなくても、こんな世界、生活が世の中にはあったのだという新鮮な驚きと、私達人間のたくましさの底を覗かせてくれる。ブドウは甘く、水は濁っている。

 武装解除、経済の復興、国際支援中心の国家体制からの脱却。アフガニスタンの行手には、まだ越えなくてはいけないハードルが幾つもそびえていることは確かである。この国は1年半の間に良くなったのであろうか、それとも悪くなったのであろうか。私がやってきたことは、果たして本当に人々のためになったのであろうか。私は車窓を流れるカブールの町並みをながめながら、ぼんやりと答えを探し始める。今までに何度となく繰り返してきた問いである。一つだけ確かな事がある。私は、一緒に仕事をしてきたスタッフや受益者に励まされてここまでやってきたということであり、受益者の人々とともに活動をしてきたという自負である。それはジェンのようなNGOがもっとも得意とし、今後も続けていくと確信できる支援の形でもある。
これからの季節、北へ伸びるチャリカへの道の脇には、折角咲いたチューリップを幾つも摘んで束にし、ドライバーに差し出して売り歩く子ども達の数が多くなってくる。たくましいと思うし、私が止める筋合いもないのだが、地雷原の中を花を摘んで歩く子ども達がいるかと思うと不安になる。個人的には、綺麗な花は摘んでしまうのではなくそっとしておいてあげたい。野生の花は、自然に咲いているその場でこそ最も美しいと思うからである。アフガニスタンの復興に国際的な支援がこれからも必要な事は私も強く感じる。しかしそれは、莫大な支援金のみではなくアフガン人の視点を忘れずにこれからも続けていくべきであることは、支援活動に関わる人間が多かれ少なかれ思っている事ではないかと思う。この国はいうまでもなく、アフガン人のものである。「アフガンのクジラ」から「パートナー」へ。その道は一筋縄ではない。でも、その一つの形を具現しているのがジェンではないかと思う。その取り組みを私のこの日記を通じて少しでも読者の方に知っていただけたとしたら幸いである。
 個人的なことで恐縮であるが、私はこれからも今までとは違った形でアフガニスタンへの支援活動に関わる予定である。私はジェンを離れるが、これからも1サポーターとしてジェンの支援活動を応援したいと考えている。実際に活動していた私が言うのだから、どうかジェンにこれからも皆さんの力をお貸しいただきたい(笑)。私の日記を読んでくださった皆さんに対する感謝の気持ちは私の筆では表しきれない。アフガニスタンの事を忘れずに、これからもこの国とジェンの取り組みを見守っていただきたい。

3月 26, 2004 事務所・スタッフ | | コメント (0)