ナハリンへの道5(駐在員椎名カブール日記)
井戸備品業者とは、井戸に取り付ける手動ポンプやパイプ、シリンダーなどを扱う業者である。今日はこの業者との商談に、村長ともう一人の村人を連れてきた。理由は井戸掘削業者との交渉とほぼ同じだが、もうひとつだけ考えていた事があった。
今回の事業を計画していた段階から、私は様々な井戸とポンプを見てきた。私はエンジニアではないので、ポンプのデザインなどについては何もわからなかったが、いくつか気がついた事があった。その1つが、水があってもポンプが故障していて使えない井戸の多さだった。いくら押しても水をくみ上げられないポンプ。柄が折られてしまったポンプ。そしてそれをただ見ながら、何もしない、何も出来ない村人達。貴重な募金で掘らせていただくナワバデ村の井戸は、できるだけ長く、多くの人に使っていただきたい。私は、掘った後数ヶ月で使えなくなる井戸は掘りたくなかった。
そこで鍵になると思ったのが、何のことは無い、メンテナンスの問題だった。何故村人は壊れたポンプを直さない・直せないのだろうか?この手動ポンプの何処が壊れやすいのだろう?ただのお金の問題なのだろうか?分からないなら専門家に聞いてみればいい。そこで今回の商談である。業者は自分の商品を売り込む為に、いくらでもこちらの質問に答えてくれる事が多い。私はこの機会を逃す手はないと考えたのだ。村人は壊れたポンプを直したくないのではなくて、仕組みが分からないから直せないのではないだろうか。この商談をちゃっかり使って、村人と一緒にポンプの仕組みついての勉強会にしてしまおう。
村人と一緒に、商品の説明からポンプの仕組みについての話に誘導してゆくと、業者は熱心に、それぞれのパーツの説明と一緒に仕組みについて説明をしてくれた。しめしめ。村人と質問をしながら学んだところによれば、いくら押しても水がくみ上げられないのは、基本的にシリンダーの部分が壊れているからで、特にシリンダーで水を吸い上げる部分のパッキン(プラスチック・ゴムでできたリングのような部分)が摩滅して隙間が開いてしまうことが原因である事が多いということがわかってきた。なんだ、ポンプのこの部分は消耗品なんだ。知らなかった。ならスペアを買っておいて磨り減ったら自分で交換すればいい。費用は1ドルちょっと。先生、ありがとうございました。
実際にはこんなに簡単に問題が解決するとは限らない。けれど、村人とポンプの仕組みについて勉強できたのは良かった。村人は業者とも仲良くなる事が出来て、これでポンプを修理するときも話が早く、だまされることも少なくて済むだろう。
クラスメイトを見送るようにして村人と別れ、私はカブールへの帰路につく。今晩はまた車内でドライバーのいびきとともに夜を明かし、17時間のドライブが私たちを待っている。でも、私の心は軽かった。マーケットを冷やかしながらお土産のメロンを買って、さあ出発。明日の夕方には、6日ぶりにシャワーが浴びられる。私を乗せた車は夕焼けに照らされて赤く輝く道を急ぐ。私は心地良い疲労の中で目を閉じる。この道は何処まで続いているのだろう。そして私をどこまで連れて行くのだろう。砂埃の中を、林を抜け、小川を渡り、人々の生活の灯を窓の外に流しながら。今回の旅の思い出を夢の中で引きずって、私は頭を窓ガラスに何度もぶつけながら眠る。
12月 4, 2003 井戸修復・建設 | Permalink
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