人々の顔が私を動かす(駐在員椎名カブール日記)
青空が広がったカブールの空には凧が舞い、どっしりとした冬の空気に淡い日の光が射している。ジェン・カブール事務所では現地の習慣に習い、主だったスタッフは車2台に分乗してそれぞれのスタッフの家を挨拶して回った。最近のカブールは冷え込みが厳しくなり、路地裏の下水に張った薄氷を避けながら歩いていると寒さが足元から上ってくる。スタッフのお宅にあがるとお茶と甘いお菓子が出され、しばらく歓談した後、次のお宅にお邪魔する。”イード・ムバラク“が決まった挨拶言葉らしい。多くの人が服を新調しているし、”おめかし”している子どもも多い。カブール市内を巡るうちに私の頭に浮かんだのは、幼いころの記憶にある日本の古きよきお正月の姿だ。昔、祖母に手を引かれて親戚回りしたおぼろげな記憶が私にはある。垢抜けてはいないけれど、独特の清潔感と高揚感があり、あらたまった気分になる。5軒ほどの挨拶回りを済ませると、私のお腹はお茶で一杯になってしまった。
スタッフの家族に会うことが出来るのはとても楽しい。子供達に“アフガン版お年玉“のようなお金をあげながら、父親のスタッフの顔と見比べてみるのはおかしい。スタッフが父親の顔になり、子どもをなだめたり、後ろ姿を心配そうに見送ったりする時、普段私に見せたことのない表情を見せる一瞬が面白い。私が1つ不満なのは、彼らの女性の家族メンバーにお会いできないことである。普段はあんなに強気なあのスタッフは実は恐妻家だと聞いたりすると、ぜひお会いしたくなるのに。
私たちジェンの事業は日本の皆さんの貴重なご寄付や財団、国際機関からの資金的支援、協力事業によって成り立っている。水、教育、職業。私がアフガニスタンにきて早や4ヶ月が過ぎたけれど、私たちが少し支援させていただくだけで、人々の暮らしが大幅に改善されると思える事業計画がたくさん浮かんでくる。けれど、残念ながら慢性的な資金難がそんな事業を実施する事を許してはくれない。折角はじめた事業も、資金が続かずに頓挫・打ち切る決定を下すことも十分ある。最近日本から来た方に私が決まって聞くのは「今、日本ではアフガンの現状についてどのように報道されていますか?」という質問である。教えてくれる方はただ首を振るばかりで、私は焦燥を隠せない。 現地政府が支援のイニシアチブを取る事を主張し、スタッフに経験と自信、希望が生まれてきたこれからが正念場なのに。アフガニスタンを忘れないで欲しい。やっと始まった復興に向かう動きを止めないで欲しい。スタッフとその家族の顔を見ながら、私はあらためて事業を続けたい、やめたくないという気持ちを強くする。アフガニスタンの人々の様々な表情は、私を現場に惹きつける。
公園には臨時の遊園地のようなものが出来て、木でできたメリーゴーランドのようなものにぶら下がって遊ぶ子供達を見ることが出来る。
こんなにたくさんの子どもが公園で遊んでいるのを見るのは、アフガンでは初めてだ。裸足に靴をつっかけて、転がるように走っている子どもがいる。厳しい寒さは何処へやら、精一杯遊んでいる子供達の姿を見るのは何か嬉しい。寒さに震え、資金繰りで眉間に自然と皺がよる私に“あの元気が欲しいっ!”と思った自分は、すっかりオヤジ。
12月 6, 2002 事務所・スタッフ | Permalink
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